2019年 12月

基材について③

前回に引き続き基材についてのお話しです。

今回は、低比誘電率材料について書こうと思います。
弊社の得意とする高速信号伝送にかかわる重要な要素でもあります。

高速信号伝送で必要な特性インピーダンスの計算に当たり、簡易計算式があります。

必要な情報は
伝送パターン(信号線)幅(W)、銅箔厚(t)、基板絶縁体高さ(層間厚)(H)、基材の比誘電率(εr)
となります。

比誘電率(εr)は、媒質の誘電率と真空の誘電率の比 ε / ε0 = εrのことで
特性インピーダンスを計算する際に必要な基材特有の数値であり、
通常のFR-4材であれば4.2~4.8程度の値をとります。

(とはいえ、毎回こちらの計算式を適用するのも大変なので、弊社ではシミュレーションツールで計算したり、簡易計算ツールを公開頂いているwebサイトを使用させて頂いたりしております)

このεrが4.0を下回るものを低比誘電率材と謳っております。
高速伝送用基材としてよく名前が上がるパナソニックのmegtron6材であればεr=3.6程度になります。
(ちなみにテフロン材であればεr=2.6以下だったりします)

なぜ、低比誘電率材が良いかを具体的に言うと・・・
「配線幅を太くすることができる」ということです。

特性インピーダンス(Zo)の値が同じであれば、
εrの値が低ければ低いほど配線幅を太くすることができます。
層間厚が厚ければ厚いほど配線幅を太くすることができます。
銅箔厚が薄ければ薄いほど配線幅を太くすることができます。

「配線幅を太くすることができます」を強く記載した理由ですが・・・全部実現が難しいからです。

まず、銅箔厚を考えます。
通常の基板であれば18μmや、35μmの基材を使用します。
これを薄くする・・・には限度があります。私の知る範囲では9μmが一番薄い基材です。
(3μmという特殊材もあるようですが、使ったことはありません)
また、スルーホール用にパネルメッキを実施しますので、実際はこの基材の銅箔厚よりも厚くなります。

次は層間厚です。
通常の基板であれば板厚が1.6mm程度です。
高速信号伝送が必要となる基板の多くは多層基板です。
層間厚を厚くしようとすると基板の板厚も厚くなりますが、厚くなると穴あけ加工が困難になるなど別の問題も発生します。多くの場合、層間厚は0.1mm~0.2mm程度になることが多いです。

上記2点は多層化・高密度化に伴いどうしても薄くなってしまいがちです。
その為、配線幅も細くなる方向になります。

アートワーク設計を行う立場からすると、配線幅が細くなるのは歓迎したいのですが、
基板製造の立場から考えると製造精度・歩留まりから歓迎されません。

また、もう1点重要な要素があります。
それが表皮効果と呼ばれる現象です。銅箔の表面に電力が集中する現象で、周波数が高くなるほど電流が表面へ集中するため、交流抵抗が増大するという問題が発生します。
こちらを解決するには「表面積を増やす≒配線幅を太くする」につながります。

つまり、「層間厚が薄くなる多層基板で、高速信号を配線したい」場合に、εrの低い低比誘電率材を選択するのは理にかなっているわけです。

ただし、基材も高価・加工費も上がるといった形で、製造コストも大きく変わりますので、全てにおいて低比誘電率材が良いとは言えません。

高速伝送信号を取り扱われる際にはこういった基材の選定も考慮しておりますのでご相談頂ければと思います。

@kitaoka

基材について②

前回に引き続き基材のお話をさせて頂きます。

基板の材料は、基材に樹脂を浸透させた後、樹脂を硬化させて製造されています。

例えば「ガラエポ」と呼ばれている基板は、ガラス布基材にエポキシ樹脂を浸透・硬化させた
基板になります。
安価な片面材として使われる、紙基材にフェノール樹脂を浸透・硬化させた紙フェノール基板など、
基材・樹脂の組み合わせは、用途に合わせて選定する必要があります。

今回は耐熱材についてのお話しです。
と言いますのも、通常の基板であれば周辺温度が0~50度程度の使用環境です。
今回お話しする基板は、周辺温度150度という特殊環境下での使用となっており、
FR-4材では耐熱温度に問題があることが分かったためです。

FR(Flame Retardant)グレードとはNEMA/ANSIで規定された難燃性規格です。
FR-1~FR-5まで規定されており、FR-5が難燃性の最も高いグレードとなっております。
JISでも同等の規格がありますが、弊社ではほとんど使わず、FRグレードが一般的かと思います。
ちなみに、

FR-1、FR-2は、紙基材+フェノール樹脂製
FR-3は、紙基材+エポキシ樹脂製
FR-4、FR-5は、ガラス布+エポキシ樹脂製

と、なっています。

弊社では、FR-1~3に相当する基材はほぼ取り扱いがありませんので、
FR-4とFR-5についてみていこうと思います。

細かく言うと、
FR-4 一般用
FR-5 高耐熱
と、規定されています。

概ね、FR-4は120度以上、FR-5は150度以上の耐熱性となります。

弊社で取り扱うFR-4材は大半が日立化成材の「MCL-E-67」という基材です。
耐熱温度はカタログ値で120~130度です。

この基材では「150度耐熱」に応えることが出来ず、高耐熱材を選定することになりました。
候補としては2つの基材が上がりました。
耐熱温度140~150度の「MCL-BE-67G」
耐熱温度173~183度の「MCL-E-679W」

「MCL-BE67G」ではマージンが無い為、「MCL-E-679W」材を採用しました。
ちなみにメーカーは「FR-5」材としておらず、「FR-5相当」材となっております。

こちらを採用頂き、ユーザ様には問題なく使用いただいております。

特殊な使用環境であることが事前に分かったため、問題となりませんでしたが、
通常のFR-4材を使用していた場合、特性や強度の低下による事故の可能性もあります。
使用環境に応じた適切な基材選定が必要となる例となりました。

@kitaoka

基材について①

今回は基材のお話しをさせて頂きます。

先ずは・・・以前紹介した弊社で作成していたリジッドフレキ基板「MCF-5000I」材なのですが、
製造中止となってしまいました。
屈曲性というメリットだけでなく、低誘電率等、高速信号伝送に向いた良い材料だっただけに
非常に残念です。

で、これだけでは記事とならないので代替材料をご紹介させて頂きます。

それが・・・パナソニック製「R-F775(コア材)」と、「R-FR10(樹脂付き銅箔)」です。

MCF-5000I材と同じポリイミド材で、誘電率等もほぼ同等です。

とはいえ、メーカーも異なりますので、100%互換というわけではありません。
インピーダンスラインの設定等は見直す必要があります。
また、MCF-5000Iに比べ少しコストアップもするようです。

「するようです」という表記なのは・・・弊社ではまだ使用実績が無い為です。

また、現状パナソニック材は入手難という問題もあります。
(台風の影響ですので、解消すると思いますが・・・)

弊社としては今後のリジッドフレキ基板の設計・製造対応はこちらの代替材を使用いたします。

興味があれば是非お問い合わせください。

@kitaoka